戦後は終わらない。

ジャックがシベリア収容所での体験話をしてくれた。
出征から捕虜になった経緯に始まって、バイカル湖で食料用の魚を釣ったこと、暖房用に松や杉を伐採したこと、めそめそ泣いていた将校の涙が凍っていたこと、犯罪者から習った品の悪いロシア語等々、一時間中に少なくともこれらの話題が十回はループしたはず。

「親戚を頼って上京したものの召集令状が来たので青森に行き、そこから万世へ出征したんだよー。」

ま、万世すか？
満州じゃなくて？
それじゃハンバーグのチェーン店ですよ。
青森からハンバーグ屋に出征するジャックの姿を想像したが、笑っている場合ではない。

「仲間の半分が死んじゃったんだね。じゃあさ、おじいちゃんが生き残った秘訣ってなに？」

「なんだと思う？」

「わかんないよ。」

「それはね、働くことだよ、真面目に一生懸命働いたからだよ。」

病人はそれぞれ1グラム、2グラム、3グラムというグループに分けられた。3グラムは重症の病人で別の場所に送られていった。2グラムは労働の出来ない病人で医療施設のようなところへ収容された。1グラムはまだ軽い病人で、同じ収容所にいた。
というような話も聞いたが、ジャックの一人息子である我が亭主も今までこんな話は聞いたことなかったそうだ。

「ところで貴女はどこからいらっしゃったの？」

急に居住まい正してジャックがワタシに尋ねる。

「貴方の息子さんの嫁だよ～。」

「あ、なぁ～んだ、そうだったの！暫く来ないんだもの、わかんないよ。」

随分認知症が進行したなぁと思う。
こんな時だから昔の話が聞けるんだろう、ジャックの戦後はまだ終わらない。

晴れ。

ジャックとジルが地元の葬祭センターに契約したオマケで無料プール券を5枚貰った。夏休み中の息子がご学友を誘って今日出かけて行ったが、ちっ、面白くない、全部野郎じゃん。女子は誘わなかったのか。

さてこれから一件デイサービスの送り出しに行って、ジム行って、ガソリン飲み込んだらジャックの世話に行ってきます。

だめだやっぱ。

X事業所を訪問した。
そこでの会話を事細かく記録するのはまた気力体力が充実してからにして、担当のWヘルパーさん・担当ケアマネさん・事務員・亭主・私がツラ衝き合せて喧々囂々。

いや、正確には担当ケアマネさんだけ黙りこくっていた。

つか、担当ケアマネさんたら私が話しかけると足が震えていた。

もしかしてこのケアマネさんは............

代わりに雄弁だったのは事務員。ありがちな事だが実質陰の所長なんじゃないかと思う。とにもかくにも腹立たしい事業所だった。

来たぜ！

「さ、シャワー入ってさっぱりすっか。」と思ったところに母から電話。

おとうさんが動けなくてオシッコもらしちゃったのよ～～～！

なんとか一人で寝具を交換しようとしたらしいが、どうにもならなくて電話をしてきたらしい。まだ薬局も開いている、必要な物を買って行くことにした。自宅から実家までチャリで暴走して約18分。商売道具として新しく購入した27インチ自転車と、新しい道路が出来たことと、筋トレで50kgのプレートを動かせるようになった脚力の成せる技。

で、行ってみると自室のベッドで何故か下半身丸出しのまま目をとろ～んとさせた父が横たわっている。80歳で五十肩やってるとかで、起こそうとしたら痛がった。てか熱がある。それで関節が痛いんちゃうか？横向きになってあーしろこーしろと自力で起こさせて汚れたシーツを取っぱらい防水シーツを敷く。買ってきた紙パンツを履かせ、一丁上がり。

いったい何故こんな状況に陥っているのか？

昨年春、胸が苦しいと言い出し心臓手術。
昨年暮、大腸癌が見つかり摘出手術。
先月、自宅階段から転げ落ち、右足首骨折。

でもってまた心臓が～～～と言い出し、病院に行ったら何故か勝手に肺がんになったと思い込み、へろへろになったのが昨夜。
なにがなにやらようわからん。
今日も病院行くそうだ。

やっぱり。

週末、夫の実家に行き、一泊した。
も、舅のアルツはむっちゃ明るくて、代わる代わる泊まりにきた孫達、私をヘルパーさんだと思い、自分の戦争体験をユーモアたっぷりに語ってくれた。

「シベリア強制収容所もねえ、そら大変だったよ、でも3ヶ月我慢すりゃ慣れちまうからね、あははははー！」

てなもんである、おいおい。。。
たまに正気に戻って、

「なんだ、○○ちゃん、来てたのかあ！もう何年も会ってないから顔、忘れちゃったよー！！」

と、私が誰だか思い出す。
姑が入院していることは、やっと認知出来たらしい。
探しにいこうとしたり、混乱したりしなくなった。

で、夫の承諾を得て姑の引き出しを探索する。
X事業所の不正の証拠を見つけなくては。
するとあっさり出てきたのでコンビニに走り、コピーした、コ○スンと同類のインチキぶりを。

今日出社したらまず自分の今週の予定を確認してX事業所を訪問する時間を作ろうと思う。こりゃ利用者の家族として許せん状況だ、まずは訪問して問い詰める話を聞く。